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【エントリーNo.030】 奥村 結希 「一粒のキャンディ」

【エントリーNo.030】

奥村 結希
作品タイトル : 一粒のキャンディ

 バングラデシュの首都ダッカの街を歩けば、あちこちから物乞いの子が駆け寄ってくる。

“お母さんが病気なの”、“お腹が空いているの”、“生活が苦しいの”、彼らはそう繰り返し、後を追ってくる。

 その日は、食事も喉を通らず、塞ぎ込んで数日経過していた頃だったと思う。もう10年以上も前の犯罪被害のフラッシュバックが、私の心身を蝕んでいた。

 日が落ちた薄暗い空。混沌とした街中へと、重い足取りでホテルを後にする。すると、物乞いの男の子が、向かいの路上から駆け寄ってくるのが見えた。

「お姉さん、お金を恵んで。生活が苦しくて、生きていくのが大変なの。ねぇ、お姉さん。」

わたしは見向きもせずに、言い放つ。「私も今、とても苦しい。」

すると、その小さな男の子は、屈託のない笑顔で私の顔を覗き込み、「これ、あげる。」そう言って、握りしめていたキャンディを私の手の中に入れ、人混みの中へと走り去っていった。

 一粒のキャンディ。それは、幼い彼にとって、やっとありつけた晩の食事だったかもしれない。甘くご褒美のようなそれは、明日への生きる希望だったかもしれない。

 人生は時に、残酷で、思いもよらないハプニングも起こる。全てを投げ出したくなるようなこともある。

それでも私は、何度でも這い上がる。

 〝生きるか死ぬか〟その壮絶な環境下で、強く生き抜く小さな彼の大きな優しさと共に。

そして、今度は私が、優しさのバトンを必要としている人の元へ届けられるように。

このエピソードの中で、あなたは何によって癒されたと思いますか? : その子の存在

【作品応募者について】
どんな職種・お仕事をされていますか? : カメラマン

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