ハートインタッチアワード

【エントリーNo.074】颯光「世界は、美しい和音の総和」

ハートインタッチアワード 心のレスキュー大賞

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ノミネート作品

「こころのレスキュー大賞」は、心に寄り添った/寄り添ってもらったことで人生が変わった体験談を通して、真に心に寄り添うサポートとはどんなものかを多くの方に広く知ってもらうことを目的に設立した賞で、毎年10月に作品募集を開始、12月のHITキャラクトロジー心理学協会のイベント〈Heart in Touchアワード〉にて受賞作品が発表されます。
Heart in Touch Award 2023

【エントリーNo.074】

颯光
作品タイトル : 世界は、美しい和音の総和

 生命は、生まれると同時に、死がプログラムされている。死ぬために生まれてきた。死は避けられないのに、私たちは死を忘れて生きている。今を楽しみ、今を喜び、今を騒ぐ。死を先延ばしにするようにその日を楽しみたいのは、なぜ死ぬのかという答えを見つけることができないからだろう。

 死は、生命の進化にとって必要なもの。私たちの生命は、別のものをつくり出すという進化の過程で生まれてきた。生命は、死ぬことを選択して進化し、命のバトンを繋いでいる。
 私たちはどこか淋しい。幸福や喜びは、自分ひとりでは完結できないようにできている。誰かに満たしてもらわなければ、私たちは淋しい。

 死にたい。中学生のころ、クラス全員からいじめられていた。いじめと無視が交互に繰り返された。攻撃されてもただ耐えるしかなかった。何も感じないようにしているうちに、何も感じられない人間になっていた。

 人間らしさを奪われていった。身体も心も痛いと感じられない。何をされても言い返せない。やり返せない。金を貸してくれと言われたら、そのまま渡す。もちろん、お金は返ってくるはずはない。自分が受けた苦痛を誰にも言えない。いじめられている自分が悪い。息をひそめて、じっとしている。そんな私は格好の標的にされた。

 私は発達障害。薬や通院で治るものではない。いくら努力しても、どうにもならない。ひとり、ただ崩れ去るのを待つだけ。私は家出した。誰も知らない遠い場所へ行きたい。自転車に乗って日本を旅した。死に場所を探しての旅だった。だが、死ねなかった。テントを張って野宿し、川の水を飲み、川魚を食べることもあった。

 家出してから三カ月後。私は北海道の日高牧場で働いていた。競走馬の飼育をしていた。身分証明や履歴書もなくても、すぐに働くことができた。牧場で、馬に乗ることもあった。牧場で、京都から来た二十五歳の女性と出会った。彼女も、旅をしている途中だった。

 彼女から、キャラクトロジー心理学というものを初めて教えてもらった。なぜ今の自分がこうなったのか。自分のトラウマの原因は何なのか。無意識のゆがみを癒すことで人生を変えることができることを知った。本来の自分へと戻り、自分の生きる意味を探したい。そう思うようになった。

 その時、私は彼女と二人で旅をしていた。青龍の背びれのような青い日高山脈が、太平洋に沈みこむ場所。がらんとしていて、ただ風が吹いていた。北海道の最果て、襟裳岬に立ち、はるか大海原を眺めていた。岩礁が遠くまで続き、岩を洗う荒々しい白波が、目に染みた。

 彼女と手をつないで、海を見ていた。すぐそばで手を握ってくれる人がいる。それだけで安心することができる。人生の淋しさから、ほんの瞬間だけ解放される。人のぬくもり、あたたかさ。それに触れるために生きている。
 死や孤独を恐れず、生きてゆこう。私の目の前には、まだ知らない雄大な未来が青い海のように広がっている。キャラクトロジー心理学を教えてもらうことで、初めて自分の未来を思い描くことができた。

 怖いと思った人間が、怖くなくなった。狭く、小さなクラスにいるときにはわからなかった。自分がいる世界だけが、すべてではない。助けを求めたら、その声に気づいて助けてくれる人がいる。自分の中に潜んでいる波動が高まってくるのを感じた。

 襟裳岬の空が穏やかに暮れてゆく。赤っぽい紫から、青っぽい紫へ。空は色彩にあふれていた。水色や黄色、オレンジ色、金銀の光が幾層もの縞をつくり、靄のように流れ、色はかさなりあいながらも澄みきったまま、それぞれの色を独自に輝かせていた。互いに調和し、美しい和音を響かせている。
「世界は美しいね」と彼女が言った。私も、大きくうなずいた。

 私たちは手をつないで、穏やかな海を見ていた。柔らかくて細やかな金箔を敷き詰めたように、海は黄金色に光り輝いていた。
 遥か遠い空の果て。この旅で、恋というのも知った。自分と同じような傷を持ったひとに惹かれあう。互いの心に寄り添い、互いの傷を癒しあおうとする。恋は傷を中和する。だから、恋に落ちる。キャラクトロジー心理学を教えてくれた年上の女性は、私の初恋のひとだ。

 キャラクトロジー心理学を知ったことで、心の声に耳を澄ますことができるようになった。死にたいと、生きたいは、同じだと思った。
 母の声が聞こえた。私を心配し、泣いている母の声が聞こえる。夕暮れの美しい空を眺めていると、泣いている母の姿が目の前に浮かんだ。

 想うことと、見ることは同じだ。目が見えるのは、光の粒や波が目に入り、網膜に映った像が脳につたわることで見えていると感じている。想いも同じ。
 心の中で強く念じた想いが自分の身体を離れ、粒子となり波となり、何かに跳ね返って脳に映像を結ぶ。目の前にいない人や風景を想ったり、空想したりすると映像が頭に浮かぶのは、この働きがあるからだ。

 想いは、同じ想いと結びつく。相手の想いを震わせて跳ね返り、その人の想いとつながることができる。強く想えば夢はかなう。世界は、美しい和音の総和。そんなふうに思えるようになったのも、キャラクトロジー心理学と出会ったおかげだ。

 その後、私は家に戻り、復学した。私は勉強した。高校へと進学し、希望の大学にも合格した。心理学を専攻するようになった。私は将来、人の心に寄り添える仕事がしたいと思う。同じように傷ついた人の役に立ちたい。いっぱい傷ついてきた人は、そのぶん優しくなれる。強くなれる。

 生命は、恋するために生まれてきた。家族や恋人、自然や神への愛。自分よりも大切だと思える人と出会えたら、人は変われる。その人のために生きたい。そう思えるから。死にたいと思っていた私は、もういない。

このエピソードの中で、あなたは何によって癒されたと思いますか? : 自分を愛してくれる、自分が愛せる人の存在

 

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「こころのレスキュー大賞」は、心に寄り添った/寄り添ってもらったことで人生が変わった体験談を通して、真に心に寄り添うサポートとはどんなものかを多くの方に広く知ってもらうことを目的に設立した賞で、毎年10月に作品募集を開始、12月のHITキャラクトロジー心理学協会のイベント〈Heart in Touchアワード〉にて受賞作品が発表されます。
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