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【エントリーNo.126】 金子 亜実 「病が教えてくれたこと」

【エントリーNo.126】

金子 亜実
作品タイトル : 病が教えてくれたこと

 私の両親は5歳で離婚し、母一人子一人で生きてきました。遊びたい盛りでもあった母は、私を祖母の家に預け、ほとんど帰宅することはありませんでした。男性との交際もあり、私は母に愛されているのか不安なまま、孤独な幼少期を過ごし、ノートに感情を書き出すことでなんとか精神のバランスを保ってきました。行き場のない感情が、いつか爆発するのではないかと思っていました。

 そして小学校5年生のときに頭痛が発症し、それ以降大人になっても度々頭痛の症状に悩まされるようになりました。やがて、28歳のときに、仕事のストレスもあってかパニック障害と鬱病を発症。同時に結婚相手と別れることになりました。仕事もできなくなり、治療に専念することに。投薬治療だけではなかなか症状が改善しなかったため、カウンセリングを受けることになりました。すると、カウンセラーが頭痛の原因について「離婚後会いに来てくれていた父親に「来ないでほしいと言いなさい」と母に言われて、思ってもいないその一言を伝えたことで、父の行方がわからなくなったことを自分のせいだと責めているから、物心がつき始めた5年生から頭痛が起きている」と言われました。「苦しかったでしょう。だけど、それで良かったのよ。あのままお父さんが会いに来ていたら、もしかしたらお金を貸してほしい等言われて嫌な思いをしたかもしれない。でも、あのとき別れたから、あなたの中では優しいお父さんのままでいる。だから、それで良かったのよ」と言われたのです。
自分を責めていたという自覚がなかっただけに、半信半疑でしたが、翌日以降、頭痛が起きることが1度もなくなったのです…。自分を許し、受容した結果だったのでしょう。

 さらに、好きなものをひたすら聞かれ、それをやるという宿題が出されました。私はヨガで鬱病を克服した体験を雑誌で読んだことがあったので、ヨガを実践し始めました。すると、どんどん元気になり、やがて自分を大切にしたいという思いが芽生えてきたのです。
 母の手料理を食べることなく育った私は、食を蔑ろにしてきたことを実感し、自分を大切にしてこなかったことに気付きました。そこから図書館に通い、食にまつわる本を片っ端から読破し、料理に挑戦し始めました。自分のために作って食べるという行為が自己肯定感につながり、ますます体調が回復していったのです。
 やがて結婚し、断薬もでき、幸せな日々を過ごしていました。ところが、2人目の子どもが生まれて半年がたったころ、パニック障害が再発。忙しい旦那さんを支えながら、ワンオペで育児していたストレスが発症のきっかけでした。何年も薬を飲み、症状が良くなっては悪くなるという波を繰り返すようになりました。病院を変えても症状は良くならず、絶望しかけた頃に義父が「ここの病院へ行こう」と行って、義母が鬱病だったときに通院していた病院へ連れて行ってくれました。

 ここで、またもやカウンセリング重視の治療を行うことになったのです。高速道路も地下鉄も新幹線も飛行機も乗れない私は、家族と旅行に行けないことで子どもに申し訳なく思っていました。ある日、旅行好きな旦那さんが旅行を予約してきたと言うので、医師は「チャンスだよ。いい薬をあげるから、これを飲んで挑戦してきなさい。大丈夫だよ」と言いました。私は不安でいっぱいでしたが、頑張って挑戦しようと思いました。ところが旅行2日前に子どもが発熱し、旅行は無理だと思った途端、とてもホッとした自分がいました。しかし翌日には熱が下がり、旦那さんは旅行に行くと言い出しました。私はあまりの不安で具合が悪くなり、旅行当日にドタキャンしてしまったのです…。

 すると医師は「本当に残念だ…チャンスだったのに。成功体験を積むことでしか、病気を克服することはできないよ」と、悲しそうな顔で言いました。そして「一度、旅行に行かなくなってホッとしたことが失敗だったね。普通は本気で治したければチャレンジするものだよね。あなたは治したいと思っていない、治りたくないと思っているとしか思えないんだけど、何か治したくない理由は思い当たる?」と聞かれました。「え?治したくない?そんなわけないでしょう」私は腹が立ちました。「そう、頭で治したいと思っていても、心の底は違うんだよね…。よくあるのは、病気が治ったら仕事量が増えるから治したくないという人が多いことなんだけど、あなたの場合はなんだろうね?」と医師。「夫婦でよく話し合ってみて」と言われ、納得しないまま帰宅しました。

 私が治したくないと思っている?その理由? 無理矢理ですが、理由を考えてみました。そこで思い出したのが、28才で鬱病になり、母親に看病してもらったときの体験でした。母に愛されているのか不安なまま大人になった私は、鬱病で寝たきりになったとき、始めて母と長い時間過ごすことができたうえに、看病してもらうことで、心に空いていた大きな穴が埋まり、本当の親子になれたことを実感することができた経験がありました。初めて心が満たされた体験でした。そして今回も、病気が発症したことで多忙な旦那さんが育児に協力するようになり、変わってくれたことで、初めて家族として心から満たされたことを思い出したのです。

 もしかしたら、幼少時代からの満たされなかったものが、病気によって満たされたことで、病気が治ってしまったら元に戻ってしまうのではないかという不安があったのかもしれない。だから治したくないと心の底では思っていたかもしれない…と思ったのです。
 でも、環境ではなく自分が変わらなきゃいけない。どうあっても満たされる自分に。それが私が出した結論でした。すると医師は「そのとおりですよ。自分が変わることが大切ということに自分で気付いたことが出発点になるんです。周りがいくら言っても気付かない人はたくさんいます。でも、そこに気付けたことは大きい。あなたなら大丈夫だと思って、キツイことを言いました。他の人だったら落ち込んでダメになっていたかもしれない。気付きに気がついて良かった。あなたが健康になっても、ご主人もお母さんも助けてくれるし何も変わらないから大丈夫だよ」と言われたのです。

 それからというもの、私は仕事で高速道路に乗らなければいけない状況になり、医師からもらった頓服を飲んで挑戦しました。すると、往路で発作が起きることなく、ひとつ自信をつけることができたのです。そうやって、地下鉄1駅に挑戦、特急電車に挑戦…と、ひとつひとつ自信をつけることができ、ついに念願の家族で国内旅行にも行けるようになったのです。

 医師から「治したくないと思っている」と言われたとき、本当に腹が立ちました。でも、その言葉から、なぜなのかと自分と向き合うことで、本当の心に気付き、病を克服することができました。挑戦して自分を認めて褒めて、前に進んでいくことの大切さも教わりました。病は何か原因があって起きるものです。そこには必ず何か意味がある。そこに気づけたとき、病は治っていく。その気づくためのきっかけであり、自分が成長するために起きていることなのだと思える様になりました。気付きを与えてくれた医師達に感謝の思いでいっぱいです。

このエピソードの中で、あなたは何によって癒されたと思いますか? : カウンセリング

【作品応募者について】
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