ハートインタッチアワード

【エントリーNo.130】 西山 友紀 「ゆきちゃん、ずっと一緒にいてくれてありがとう」<癒し手部門賞>

ハートインタッチアワード2022
こころのレスキュー大賞 部門賞
癒し手部門

【エントリーNo.130】

西山 友紀
作品タイトル :ゆきちゃん、ずっと一緒にいてくれてありがとう

その日は、朝から夫の実家で農作業の手伝いをしていました。
胸ポケットに入れたスマートフォンから着信音が聞こえ、取り出してみると、私のことを「ゆきちゃん」と呼んで親のように姉妹のように慕ってくれている、大学3年生になったばかりの姪っ子からでした。
いつもよりもどこか悲鳴のように聞こえた着信音に、予感、というか、ふんわりと胸にグレーの雲がかかったような感覚を感じつつも、「悪い予感は当たらないもの」と気を取り直して通話ボタンを押し、つとめて明るい声で私は言いました。
「もしもしRちゃん? どうした?」
「ゆきちゃん…」
彼女の声は泣いていて、私は胸が引き裂かれるような思いがしました。何らかの、悪い予感が当たってしまった。予想される中でも一番あって欲しくないケースでなければいいと祈りながら私は電話の向こうのRちゃんに向き直り、ハートを開きました。
「Kと別れた」
そう言うと彼女は堰を切ったようにしゃくり上げて泣き出しました。

どうして? どうして?
私の中にも疑問符がぐるぐると渦巻きます。なぜなら、つい数日前、「ディズニーなう」のツーショットの写真が送られてきたばかりだったから。
でも、その写真に写る彼の笑顔にどこか影を感じたことも、同時に思い出しました。
別れようと思っているのにディズニー行くの?
だって泊まりがけで行ってるんでしょ?
一瞬の間に私の頭の中はイメージとジャッジメントでいっぱいになりました。

でも、
ちょっと待った。
これは私が混乱していてはダメなシーンじゃないか?

私は、彼女の混乱に巻き込まれてぐるぐる思考が止まらなくなり、同時にどうしていいかわからず自分の中から抜け出しそうな自分をまずはおさえるために、自分の内側にグラウンディングし、自分の足が大地にしっかりついていることを感じました。そしてとにかく柔らかくハートを開き、自分の全ての注意を彼女に向け、彼女を自分のハートの内側に感じることに自分の存在すべてを使いました。

今、目の前で、酷い感情的反応に陥っている、私の大切な存在を助けたい。
私の頭の中にはその想いしかありませんでした。

突然のことに混乱し、絶望し、なすすべもなく泣くことしかできない彼女の話を聞きながら、私は、SAS(セルフアウェアネススキル)をしようと思いました。
「ゆきちゃんがRちゃんと一緒にいるから。絶対に一緒にいるから。大丈夫だから」
私は手短にSASの説明をし、やってみたいかどうか、彼女に尋ねました。
実は彼女に対して自分がこれまでに学んできたSASのような癒しのスキルを使うことは、私にとって小さなチャレンジの一つでした。なぜならこれまで、軽い恋愛相談をされたときに私が少しでもそういう気配を見せると、彼女がいやがる態度を見せるように感じていたからです。
けれども今回は、「やってみる。やってみたい」との返事が返ってきました。

「今、体の感じはどんな感じ?……どんな感情を感じている?……どんな言葉が頭の中を回っている?……」
SASの流れに従って、私は彼女のぐちゃぐちゃに絡まった感情を解きほぐすためのリードをし、そこにある信念体系を外しました。
その時点でふわっと、電話の向こうの彼女から少し力が抜けたように感じました。私がそう感じたのと同時に、彼女が
「なんか今、ふっと楽になった」
と言ったので、私が感じたその感覚は正しかったと思いました。
次に、その信念体系が生まれる元になった子どもの頃の記憶を探ってみたのですが、比較的早く彼女がぽつんと口にしたのは、両親が離婚し、彼女の母親が再婚した後、Rちゃんが母親に内緒で最初の父親と連絡を取った時の出来事でした。

会いたいのに会えない。

私たちの知らないところで彼女がそんな思いをしていたことに私はショックを受け、そんなことも知らずに楽しんでいた自分を恥ずかしく思ったり、内緒で連絡を取っていたことで裏切られたように感じたり、またそんな思いをさせてしまったことに対する申し訳なさを感じたりと、一瞬にして自分の内側にさまざまな感情や思考がどっと現れてきたのを、私は感じました。

でも、今、私は、自分の感情的反応の奔流に巻き込まれてはいけない。

私は、この子を助ける。

そう意図を立て直し、彼女の記憶の中に残るそのシーンから、そこに埋もれたままのその瞬間彼女が持っていた本当のニーズを見つけ出せるよう、あれこれ口を出すことなく、ただ、彼女を自分のハートの暖かいところに抱き、私の全神経を彼女に集中させました。

この頃には、電話が来た最初のときよりもずいぶんと落ち着きを取り戻してきましたが、それでも、彼女のハートのヒリつくような痛みは私にも文字通り痛いほどわかります。
恋愛の痛みは、本当にしんどくて苦しいものです。20年生きてきても50年生きてきても、ハートの痛みは同じ。違うのは、今の私はその痛みの正体がわかっているということ。その痛みへの対処の仕方をわかっているということ。
求められない限り、こういうとき自ら自分の経験を話すことはするべきではないと思ったので黙っていましたが、少し落ち着いてきた彼女に
「ゆきちゃんも若い頃、こういうことあった? こんな苦しい思いしたことある?」
と尋ねられたので、自分の経験を少し話しました。
こんな痛みを感じているのは自分だけではないんだ、と、彼女が少しでも感じてくれるようにと願いながら。

「じゃあ、いま、あなたはどうしたい?」
大人の事情に振り回され小さな胸を痛めた子どもではなく、自分で判断し自分で決めることのできる大人になった今、自分のニーズを満たすため---自分のために、どんな行動が取れるか。
次に、それを彼女と一緒に考えました。
そうして思いついた、“自分で自分のニーズを満たす行動”のためには、とても大きな勇気を振り絞らなければいけないけれど、
「そんなことできるかな、していいのかな」としばらく葛藤したのち、
「…やってみる。」
そう彼女は言い、これから友達が駆けつけてくれるから、そろそろ切るね、と電話を切りました。

偶然か必然か、その2日後、私はリリースされたばかりの恋愛キャラクトロジー1Day講座とマスター講座を受けることを予定していました。
会場の名古屋に向かう電車の中で、幼い頃からその成長をずっと間近で見てきたRちゃんのことを想いながら、「私は、すべての恋する人が、無駄に悩み心を痛めなくて済む恋の仕方を教えたい」と思って講座に臨んだことを思い出します。

数日後。彼女から電話がありました。
その声はとても晴れやかで…大きな大きな勇気を振り絞って、自分のニーズを満たすための行動を、自分で取ったことを報告してくれました。そして、彼が話してくれた別れの理由に、彼女の自己責任の場所を自分で見つけ、引き受けることができたということを。
いつの間にか本当に大人になった彼女を、私は本当に誇りに思いました。
「ゆきちゃんに相談して本当によかった。友達に相談するだけだったら、今頃まだボロボロに泣いてたと思う。
ゆきちゃん、ずっと一緒にいてくれてありがとう」

あれから3回ほど季節が巡りました。
今、彼女の隣にいる彼には、敬意を持ってニーズを伝え、たとえその結果ニーズを受け入れてもらえなかったとしても、それは彼の権利、彼のニーズであると受け止めることができる良好な関係を築けているようです。

このエピソードの中で、あなたは何によって癒されたと思いますか? : 自分の全存在をかけて相手に寄り添ったこと

 

【作品応募者について】

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