ハートインタッチアワード

原動力は紅い口紅【ハートインタッチアワード2021ノミネート作品】

ハートインタッチアワード2021
こころのレスキュー大賞ノミネート作品

【エントリー18】夢草家 Naoko(まえだ なおこ)

ハートインタッチアワードとは?

ハートインタッチアワード・こころのレスキュー大賞は、誰かに真に心に寄り添ってもらった体験、誰かの心に真に寄り添った経験を通して、真に心に寄り添うサポートとはどんなものかを実例を通して多くの人に広く知ってもらうことを目的に設立した賞です。
Heart in Touch AWARD

エピソード
70代女性 その方にサービスに入り始めたのは3年前。
新しい拠点で仕事をはじめ、最初に関わった女性です。すでにサービスははじまっていて、毎日、朝夕の2回のおむつ交換と、週1の清拭サービスが提供されていました。
筋萎縮とひどいパーキンソンで、体はぶるぶると常に小刻みに震えていて、上を向いて寝たきりで、手足を自由に動かすこともできませんでした。
顔の表情もなく、小さく口を動かすのみです。目も表情がなく、ただ開いてるだけです。その能面な様子には、ちょっと身震いしてしまうぐらいの冷ややかさがありました。
週1で、入浴のためデイサービスに行かれていますが、せめて、出かけるときは、きれいな洋服をとのご主人の配慮で、元気な頃お出かけには着られていたおしゃれな服に着替え、髪をとかすのですが、それでも無表情でした。
当初わたしは、体のブロックから、そこにある感情のブロックはなんなのかをみていくスキルにちょっとはまっていたので
なんとなく、意識しながら、ケアに携わっていました。
最初は、とりあえず、ケアしながら、体に触れた手の感触を、ただ、伝えていました。冷たいね、熱いね、むっちゃ固いね、グリグリが動くね、など。ほとんど表情は変わらなかったですが、手が温かいと筋肉はゆるみ、陰洗のときも、温かいお湯やタオルをあてると、ふわっと少し緩んでいるのは、確実でした。
更衣の時、わたしは、どんなに麻痺がある人にも、「次ここをこう動かしますね」と、動かす部位を擦って、軽くどう動くかを示してから、「せいの~で」と、動かし、動いた部位を痛かっただろうとおもえば、擦ります。もちろんこの方にも、その方法をとりました。
サービスを繰り返すなか、ご本人からは聞けてないけど、「あの人のときは、痛くない」と、言われていることをケアマネから聞きました。
他の人との違いをみつけて、自分がこうしているということを他のヘルパーにも伝えました。みんなで、共有し、統一的なサービスがしたかったので、自分はサービス提供責任者でもあったので、手順として、徹底しました。
徹底後、明らかに、少し動く可動域が広がっていくのを感じていました。
少し顔の表情も、ゆるんできました。おむつ交換のために、足をひろげてもらったり、横を向いてもらうときに、あきらかに可動域に変化を感じられるようになりました。
しかし、少し全体にほわっとしてきた顔ですが、依然表情はないままでした。
そんなある日、たまたまデイサービスのお迎えが少し遅れていて、時間に余裕がありました。そして、そこに、口紅を見つけました。少し引き出しをさがすと色付きリップもありました。ほんのり、ピンク色のリップをその方の唇に塗って、鏡をみせたとき、小さな声で「口紅がいい」と聞こえたように感じ、わたしは、赤い口紅を塗ってあげました。
その時、口元がすごく緩んで、目が笑ったんです。
初めて見た表情でした。
その後、デイサービスの日は口紅、家では、ほんのりピンクリップを塗ることと、化粧水を顔を拭いた後、つけてあげることうを、日課にしました。つけたあと、必ず鏡を見て、確認していただきました。
当初ヘルパーのなかには、あいつはめんどくさいことばっか言ってくる、ただでさえ、きつきつの時間に追われたサービスなのに、、、と、陰口も聞きましたが、わたしは、「やってください」を、言い続けました。最初は、仲間うちで、私の悪口も聞こえてきていました。
が、その頃から、サービスを終えると、小さな声で「ありがと」って言葉をかけてくださるようになりました。最初は、ありがとって、聞き取れないぐらいでしたが、しばらくすると、はっきり「ありがと」って言ってくださっているのがわかるようになりました。その言葉は、どのヘルパーにも伝えてくださっていたようで、他のヘルパーたちの在り方にも変化がうまれてきました。
そのころから、確実に意思疎通ができるようになりました。
「今から、拭きますね」「横向きになりますね」などの声掛けに、「うん」と、目とわずかな顔の動きで、伝えてくださるようになりました。
そのうちに、声を発して会話ができるようになり、手足を動かすとき、微妙だけど、確実にご自身の意思で動かされるようになりました。
どこもカチカチだったからだが、あきらかに、少し、やわらかくなってきました。
柔軟になっていきました。
自分自身のからだが、動かせば柔らかくなるということを、体感で感じられはじめ、ここ固いね、ここ今日はゆるんでるね、と伝えると、うんうんと、うなづかれるようになりました。
表情も豊かになり、少しずつ会話もできるようになりました。
「きょうは?」と言われると「今日は晴れ、あったかいですよ。外は風きついです」などと話すと、じっと笑った目で聞いてくださったり、そのうちに、今日の出来事などを話すと、「うんうん」と相槌も打ってくださり、質問をなげかけると、首をふりながら、言葉も発してくださるようになりました。
さらに日が経つと、普通に、おむつ交換、更衣がおわると、ご主人が加わり、3人で談笑しながら、また来ますね、またきてね、と、挨拶し帰るようになりました。言葉はほんとに聞き取りにくいですが、ちゃんと言葉を発してくださるようになったのです。
口紅を口につけた日以降の変化は、ほんとに早かったです。その変化はそこに携わったみんなが実感できるものでした。
ある日気づいたら、体が勝手にふるえてしまう現象は起こらなくなっていました。
寝ている間に履いていたはずの靴下が脱げていることも起こりました。
時に、ご主人がお出かけ用に、選んでくれた洋服に、「センス悪い」と苦笑されるようにもなりました。
顔や体を拭いたとき、筋肉がゆるみ「きもちいい」と、声にしてくださるようにもなりました。
体調も安定し、すごくいい感じに、変化しているのを、みんなが感じて、うれしくおもっていました。通常、悪くなっていくのをその進行をいかに緩やかにするか、という場所で仕事をしている私たちにとっては、ほんとに、うれしい奇跡に近い経験でした。みんなのテンションもあがり、ほんとに、利用者さまを思い、少しでも力になりたいという意図で一人一人が携わることができる現場になっていきました。
私の「体はどんなに硬直して動かなくても、アプローチをしつづければ、必ず動く」という持論を、立証して、そこにいたみんなにも体験してもらえた貴重な現場でした。
残念ながら、この方は、コロナ渦のある日、高熱を発せられ、緊急搬送され、そのまま帰ってこられることは、なかったですが、わたしは、この経験があるから、チームみんなで一丸となって仕事ができる経験値を得て、どんな状態であっても、筋肉にアプローチしつづけることを、絶対やり続けると、必ずそこに結果があることを仲間みんなで体感できました。
介護サービスは一人ではなく、ご本人、ご家族、ケアワーカーみんなで行うもの、決して、一人では、いいサービスは提供できないです。自分だけが、一生懸命になにかをやっても、他のスタッフとの力量に違いがあれば、結果、「あの人はやってくれるのに、あの人はやってくれない」などの差別化も起こってきます。が、こうやって、私がリードしながらも、みんなが同じ方向で働きかけ、チーム全体がもっとよくなりたいって方向に向かえたサービスでした。これからもわたしは、ケアワーカーの一員として、働き続けたいです。


このエピソードの中で、あなたは何によって癒されたと思いますか? : 凍り付いていた心を溶かした紅い口紅
どんな職種・お仕事をされていますか? : 介護
今回の応募は自薦/他薦ですか? : 自薦

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