ハートインタッチアワード2021
こころのレスキュー大賞ノミネート作品
【エントリー92】松本 幸大(まつもと こうた)
エピソード
中学一年の入学したばかりのとき、僕は人を信用しなくなりました。
言いたくも、思い出したくもないですが、理科の実験中にそれは起きました。班の人たちは実験をやらず、僕はその理由をまだあまり深く考えていなくて「コウタやっといてよ」と言われるがまま、それがきっとみんなの助けになるんだと浅はかに、独りですべてをやっていました。準備から実験、考察に至るまで、そして、すべて終わると班の人にその考察を写させる。
二ヶ月ほど、それが続いていたと思います。ただあるとき、先生がそれを注意しようとしました。僕は先生がなんで怒るのかよくわかりません。
班の人はこう言った。
「コウタが全部一人でやっちゃうから俺たちができない」
先生は僕を怒りました。廊下に出しました。評価を下げました。怒られているのは、どうやら僕のようで、僕はまわりを見ましたが、みんな目を背けました。誰も助けてくれなかった。
それまでは他にも、宿題を見せたり、わからないことを教えたりしていました。それがみんなの助けになるんだと信じていました。
でもそのときわかった。
ああ、頭を使わないといけない。でないと自分が損をすることになる。他人になど構っている場合ではなかった。
生まれて初めて頭が回転する感覚を知りました。
それからは影を消します。人には色があって、その矢印も出ていて、その方向は目線の誘導や会話の中で僕以外の方向に向けることができます。おかしな話ですが、中学生の僕には確かにそれが視えていたのです。僕は自分が他人から見られないように心がけました。
友達は空白に。いつしか僕のまわりに人はいなくなった。
それで良いと思い続けて生きました。いや、死んでいたのかもしれません。少し経つと、ふと、学校行きたくねぇな、ってなりました。なぜだかわからないけど、うるさくて集中できない授業や、鬱陶しい青春に付き合うのが面倒になりました。
暗いことばかりが続いても仕方ありませんね。
面倒だけど僕はあのとき、誰かに見つけて欲しかったんだと思います。
見つけてもらったのはそこから二年。同じクラスの六人でした。
きっかけは突然遊びに誘われてからです。めっきり人を信用しないのが染み付いていましたから、当然のように断りました。
「どうせ自分と遊んでも楽しくない」というように。他にも色々言ったと思います。誘われたのが嬉しいからこそ、ぐちぐち言い訳を唱えて断ろうとした。
殴られました。
「そんなんで誘ったんじゃねぇ!」って。
行きたいかどうかを聞かれて、僕はその勢いに負けて一緒に行くことを承諾しました。
僕にとって、それからは五人がみんなです。
みんなはたくさん話を聞いてくれた。似たような経験のある人たちだった。でも、みんな乗り越えてきた人たちだった。
救われました。
よく休む学校も、一緒にサボってくれた。唯一学校の外で頑張っていた硬式テニスを応援してくれた。たくさんたくさん、遊んでくれた。
僕は学校が心底嫌いだったけれど、そこにいるだけはできるようになりました。
『友達』ではないそうです。
こういうのは『仲間』というんだと、みんなは教えてくれました。信用なんて言葉もその間にはない。何があっても平気、繋がっているという感覚です。
卒業してみんな離れ離れになりましたが、僕はもう平気です。心の中にみんながいるような気がするのです。
独り独り個性の分かれるやつなんです。
現在、独りは放浪していたり、独りは国家公務員、独りは医者の道、独りは料理人、独りは大企業、それぞれ違う目標を持って頑張っているんだと思います。
六人目、僕は藝術系の大学に入り、こうして言葉を綴ります。人と話すのは苦手だし、まだ怖いのは抜けきれていないけれど、自分の言葉で伝えられることを精一杯伝えたいと思います。
一番の成長は、妥協ができるようになったこと。
居たくない場所でも「まあいいか」と居られるようになったり、一歩引いたところで考えられるようになったり。
まだまだやることはあるし、できないことはあるけど、成長していきたい。
成長は一生続くものなんだと思います。終わりがないから人間です。
そう思うと、これ以外にも色々あったすべてが僕の血となっている気がします。僕の呼吸する力になっているような、そんな気がします。
だからでしょうか。
樹から落ちる一枚の葉にすら、僕は最近、運命を感じるんです。
このエピソードの中で、あなたは何によって癒されたと思いますか? : 仲間
どんな職種・お仕事をされていますか? : 大学生
今回の応募は自薦/他薦ですか? : 他薦
他薦の場合はその方のお名前をご記入ください : ひでちょん、ちぃ、みじゃん、おかやん、かい