ハートインタッチアワード

命をかけたプロセス【ハートインタッチアワード2021ノミネート作品】

ハートインタッチアワード2021
こころのレスキュー大賞ノミネート作品

【エントリー85】筑井 由紀子(つくい ゆきこ)

ハートインタッチアワードとは?

ハートインタッチアワード・こころのレスキュー大賞は、誰かに真に心に寄り添ってもらった体験、誰かの心に真に寄り添った経験を通して、真に心に寄り添うサポートとはどんなものかを実例を通して多くの人に広く知ってもらうことを目的に設立した賞です。
Heart in Touch AWARD

エピソード
看護師歴30年ほどになります。
そのうち、20年は老人施設や訪問看護で仕事をしてきており、多くの人の看取りケアをしてきました。
死にゆく時、自分の希望を一つずつでも叶えていくことができれば、できるほど、奇跡的な出来事であっても、全てご自分で叶えていかれたことなのだなと感じる瞬間がたくさんありました。

その中でも、今でもわたしのこころに残っている体験があります。

私と同じ年の乳がんの末期がんの女性。
Kさん。ご主人と高校生の男の子と中学生の女の子のお子さんがいました。
わたしと家族構成も一緒でいろんな感情を重ねていたと思います。

何度も手術や抗がん剤、放射線治療をして、それでも、肺、肝臓、腹膜へと転移は広がり、もう、病院での治療方法はなく、ご本人も理解してご自宅に戻られてきました。

お会いした時は下半身のむくみが強く、妊婦さんのようなお腹と倍以上に腫れ上がった足、トイレに動くのでさえも大仕事の状態でした。

それでも、Kさんは嘆くこともなく、こうやって、子供たちと一緒に過ごせる日々の生活に喜びを話されていました。
数ヶ月後には息子さんの高校の卒業式で、それに出られるかなあ、とお話しされていたことを思い出します。

Kさんの介護は遠方から住み込む形で70代のKさんのお母さんが一手に引き受けていました。
Kさんだけでなく、多忙で不在がちのKさんのご主人、そのお子さんたちの食事の世話から、家事一切を取り仕切っており、まるで家族のお母さんの感じでした。

Kさんは日に日に、病態は悪化し、強い痛みが時折襲ってくるため、持続的に体内に麻薬を注入する装置をつけていました。

麻薬が身体の中に入っていくと、痛みは軽減されますが、意識を混濁、朦朧状態にさせていくものでもあります。

痛みは病気の進行具合と比例するものでないことを、多くのがん末期の患者さんを看取ってきて感じていました。

痛みがあるところには何かしら多くの感情のブロックがあることも、ヒーリングの学びで理解していました。

ある時から、痛みの訴えではなく、精神症状がかなり激しい状態になってきました。

お母さんが作った彼女の希望のスープを「こんなんじゃない!」と放り投げたり、自分がこんな状態になってしまったことをどこにもぶつけられないがため、日々のお母さんとのやり取りの中で、その怒りのエネルギーをお母さんにぶつけていきました。

ある訪問をした日に、Kさんがお母さんに激しい罵倒する声が聞こえてきて、お母さんが困り果てている姿でおられました。

Kさんの姿は3歳児がお母さんに駄々をこねている、そんなエネルギーの感覚をわたしは感じていました。

Kさんはわたしの姿に気づくと、何か糸が切れたかのように、すーっと眠りに入っていかれました。

お母さんが「なんで、こんなふうになっちゃったのかな」と呟かれ、ふっと、Kさんの幼少期のことを聞いてみました。

「Kさん、小さいころはどんな子供だったんですか?」と聞くと
お母さんは
「私が離婚して、1人であの子とお兄ちゃんを育てるのに、旅館の住み込みで仕事をしていたの。ほんとにいい子で、こんなめちゃくちゃなこと今まで言ったことなんてないのよ。」と。

たくさん麻薬を体内に入れてゆくことで脳の脱抑制が起こり、その下に抑圧されてきた感情がでること。

人は体験しなければならなかったことを体験しなければ、その次のステップには進めないこと、彼女は小さな頃、こうやってお母さんに甘えたかったことを、今、しているんじゃないかな、と伝えてみました。

お母さんは「そうね、ほんと。いろんなこと我慢させてきたと思う。こんな病気になって。子供を残して逝かなければならない。何度、代わってやれないか、と思ったことか。でも、代わってやれない分、わたしができることはしてやりたいと思ってね。」

この日を境に容体が安定し、痛みを訴えることはほとんどなくなっていましたが、身体の衰弱は進んでいました。

遠方からきているお母さんがどうしても自分が一度、自宅に戻らないといけない状況となりました。

どれだけ、早く行って帰ってきても、3日はかかる。

お母さんは「この落ち着いている状況なら、大丈夫かな。」と判断され、自宅に帰っていかれました。

その間はご主人さんが、仕事を休まれ、子供さんたちと3人でKさんのお世話をされていました。

その期間も看護師が訪問している時間に合わせて、お母さんから電話があり、「状態はどう?」と 聞かれていました。
Kさんは「もう、元気だから、そんなに気にしないで!って言って」と笑顔でわたしに言い、電話の向こうのお母さんを安心させるような感覚でした。

ご主人や子どもさんたちと一緒にいるKさんはお母さんがいる時とは違う、自分らしくいる感覚を感じました。
実際にバイタルサインも安定しており、表情も良く過ごされていました。
「明日にはそっちに戻るからね。」これがお母さんとの最期のやり取りでした。

その夜、状態がおかしいことにご主人が気づき、ご主人、子供たちが見守る中、看護師が駆けつけた時には息を引き取っていました。

その日はクリスマス。家族4人でケーキを囲みクリスマスを楽しんだ後だったとのことでした。

彼女の最期にたち会えなかったお母さんは確かに悔やまれました。

でも、彼女は自分の内側にあった「怒りのエネルギー」を今まで、向けられなかった母親に向ける体験が、最期は自分の創った家族と過ごしたいという『自立』のプロセスを超えたのだと感じました。

あの母親への反抗が彼女の今世、生きてきた、体験として必要な体験であったのならば、命をかけてまでする必要があったのだろうか?

もっと、もっと前に彼女に出会いたかった。病気になる前、まだ、彼女が生きるを選択し続けている時に。訪問時に何度も思い、訪問後に涙しながら帰ったことを思い出します。

わたしは今、看護の現場ではなく、ヒーリング、カウンセリングを通して、クライアントさんをサポートするところに立っています。

人は前世でやり残した自分のプロセスを肉体を持つことで、感じ、体験することで、課題をクリアしていくことをしています。

その課題が人生の中で起こる、悩みであるならば、命をかけてではない方法で、課題をクリアしていくことができるのだと、自らの体験からも感じています。

看護師として、死の間際の人たちから教えられた多くのこと。ここを知っているから、肉体があるから体験ができる。
肉体があるから感情を感じられる。肉体の尊さと未知なる力も知っています。

自らも癒しながら「今、何のために生きているのか」をクライアントさんと一緒に歩く人になっていこうと思っています。


このエピソードの中で、あなたは何によって癒されたと思いますか? : 感情を感じ表現することを受け止めてもらう体験
どんな職種・お仕事をされていますか? : ヒーラー カウンセラー 看護師
今回の応募は自薦/他薦ですか? : 自薦

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